東北学院大学文芸同好会

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三段噺 始めてみませんか?Part2 - 平田東正 URL

2011/01/08 (Sat) 15:43:06

 宣言通りPart2へ移行します。平田です。

 ルールをまとめますと、平田が出した三つのキーワードを使いお話をつくる、長過ぎるようであれば分割してもよく、キーワードは一つ前のものまで使用可能、ということで。

 みなさん忙しく活動に参加できないときもあるでしょうが、それでも、お話をつくりたい、読んでもらいたい、という基本の想いは、いつまでも大切にしてもらいたいとおもいます。

 また、おそらく私がこのスレを続けるのはPart2で終わるでしょうが、細々とであれ、誰かが引き継いてくれれば、うれしいです。

 記念すべき第一回目のキーワードは、
【キーワード】「秋」「想い出」「自分の部屋」

 それでは始めましょう。
 「三段噺 始めてみませんか?」

Re: 三段噺 始めてみませんか?Part2 - 平田東正 URL

2011/06/01 (Wed) 05:43:35

 ひとつ提案をさせていただきます。
 前に、「三段噺」は正しくは「三題噺」であるが、このまま「三段噺」で進めて行く旨をお話ししました。そのときに、「三段」ならではの特殊なルールを付けてみようかとも言っていましたが、それを思いつきました。「段」とは、一歩一歩進んで行くイメージがあります。つまり、「段」とは「順番」の意味を含んでいます。
 そこで、「三段噺」では、キーワードの「順番」も指定したら面白いのではないかと思います。「順番」は、出された順とします。試しにやってみますが、これでやったみたいと云う方が他にもいましたら、ぜひ挑戦してみてください。


「秋」→「想い出」→「自分の部屋」 

 秋にサンマを焼きたくなるのは実にシンプルな理由で、サンマは秋に食べるのが一番美味しいからである。サンマと言われてふと私の脳裏をよぎるのは、 小学の友人との件である。
 私と彼は小さい時からよく一緒に遊んでいて、休みになれば山へ海へと走り回り、夜遅い帰りに親父の拳骨をよくもらっていた。良い想い出ばかりではないが、彼との想い出は、まるで空を流れる雲のように爽やかな気分を私にもたらしてくれた。
 そんな中でものとりわけ私の記憶に残るのは、小学二年の夏休みに彼と川へ魚釣りに行った日のことだ。岩に乗せた裸足が火傷するほどに暑い夏だった。
 私たちは自前の竹竿を肩にかけながら、釣りのポイントを探していた。あまりの暑さに魚たちも参っているのか、とんと餌に食いついて来なかった。私は嫌気がさして、「飲み物買って来る。」と言った。彼はこちらを見て気怠げに頷きながら、「俺の分もね。」と念を押した。
 二本のコーラを手に持って川に戻ると、彼がなにやらはしゃいでいるのが見えた。どうやら魚が釣れたようで、私はさっそくその戦果を拝ませてもらった。
 バケツの中に居たのはサンマだった。私は思わず、「サンマか……。」と呟いた。小学校でサンマは秋の魚であると習っていた私には、夏に釣ったサンマが少し不気味なものに思えたのである。だが、彼が嬉しそうに「家で焼いて食べようぜ!」と言うので、私は仕方なくそれを持ち帰ったのだった。
 釣った魚は、これまで母に調理してもらっていた。しかし、サンマを不気味に思っていた私は、こんなものを母に渡すことはできないと考え、彼にこう言った。
「このサンマ、俺の部屋で焼かないか?」
 彼は少しばかり驚いていたが、魚を自分で焼くという初めての経験に興味を惹かれて快諾した。私たちはこっそりと台所から七輪を持ち出して、自分の部屋に入った。母の見様見真似で炭に火をつけると、これが案外にうまくいったので、得意になってその上に網と釣ったサンマを敷いた。
 数分もすると、サンマのさらりとした脂がいい感じに垂れてきて、私たちは唾を呑み込んだ。ところが、その脂が熱した炭に垂れた瞬間、ものすごい勢いで煙が湧いてきたのには仰天した。酸っぱい煙を吸い込んだ私は思い切りむせた。
 後で聞いた話だが、夏のサンマは脂が多いため、焼き魚にするのにはあまり向いていないとのことだった。しかし、その当時の私たちはそんなことを知る由もなかった。
 慌てて部屋を脱出するが、煙はすぐさま私たちの後を追ってきて、あっという間に家中に煙が広がった。事態に気付いた母が私の部屋に入ってサンマを窓から投げ捨ててくれたため事無きをを得たが、もし誰も家にいなかったらと思うと、私は今でもぞっと背筋を冷やすのである。
 私たちはその後両親にこっぴどく叱られ、二人でわんわんと泣いたものだ。
 だからだろうか、私は彼に会うといつもこう呟いてしまうのだ。ああ、サンマの焼ける臭いがするなあ、と。そうして、酒でも呑みながら、今でもサンマが苦手な自分たちを笑い合うのである。 (了)

Re: 三段噺 始めてみませんか?Part2 - 詩雨 URL

2011/06/06 (Mon) 15:52:03

調子に乗って挑戦してみました!
短いのでお付き合い下さい(笑)

秋にはいい想い出がない。
食欲の秋、スポーツの秋、読書の秋、芸術の秋。
色々あるけれど、秋にどれをやっても良いことになったためしがない。
読書の秋で文学に手を出せば知恵熱を出し、芸術の秋で絵を描けば少しも似ない絵を描き、食欲の秋と言って何かを食べれば九割の確率で食中り、スポーツの秋と言って運動すれば病院へ運ばれる始末。
「……もう、秋なんか嫌いだ」
ほとんど自分の部屋と化している文芸部室の椅子で呟いた私に、『彼』は苦笑いしながら言葉をかける。
「下手に難しい本を読まなきゃいいじゃん」
それはそうだ。
「絵だって何かを描くんじゃなく、想像したまま描くってのもあるし。……後者二つに関してはノーコメント」
どうせなら全部教えて欲しいものだけど。
ともあれ、いつからかこの部屋に居ついた『彼』は手元にある文庫本を捲っている。
「で、何読んでるの?」
「ホラー小説」
どうせなら夏に読みなさい。
「っていうかさぁ、幽霊がホラー小説ってどうなのよ?」
『彼』こと文は長いことこの部屋に居ついている幽霊だった。
地縛霊、というやつだろうか。
「面白いじゃん、ホラー」
「君が言うとすごく滑稽だね」
初めて文が現れたときは物凄くびっくりしたけれど、もうこの饒舌な幽霊に馴れてしまった。
馴れって凄いな。自分が恐ろしい。
ともあれ、部員一名で存亡の危機に瀕しているこの部で話相手がいるというのはささやかな心の支えになっていた。
私一人でこの部をやっていく自信はないし、文がいなければ私もここに来る理由はないかもしれない。
「ホラー小説ってのはさ、必ずしも読者を怖がらせる必要がないんだよ」
そしてこの幽霊は読んでいる本にすごく影響されやすいらしい。
「と、いいますと?」
「ホラー映画やホラーゲームってのはお客さんとかプレイヤーを驚かすように出来てるじゃない?ホラー小説はなんと、主人公を恐がらせるように出来てるんだ」
「……ふーん」
「なんだよーその反応」
ぶーぶーと文句を垂れる幽霊は置いといて、私も読書を始める。
まだ一般文学は難しいけれど、いつか文のようにあらゆる本を語れるくらい、本を読んでみたいものだ。
(了)



追記
秋刀魚は…海水魚です……

Re: 三段噺 始めてみませんか?Part2 - 平田東正 URL

2011/06/07 (Tue) 23:01:42

 >詩雨さん
 きっと友達の彼がこっそり海から持ってきたんだよ///////。……ごめん、めっちゃ恥ずかしいな。全国のサンマを川に流したくなるくらい恥ずかしいわ。

 まあともかく、詩雨さん、投稿ありがとうございました。約1年ぶりの投稿だったため驚きのあまり二度見してしまいました。これからも気が向いた時に投稿してもらえると嬉しいです。

 『彼』の正体のバラし方が実に自然でいいと思います。ホラー小説に対する見方も、独特で面白いです。前半の「食欲の秋、スポーツの秋、読書の秋、芸術の秋」の順番が、次の所で変わっているので、同じ順番にした方が、流れがすっきりときれいになるかもしれません。あとは、幽霊が話せるし本も読めると云うのは、ぼくの幽霊観とずれがあって、興味深いですね。

Re: 三段噺 始めてみませんか?Part2 - 詩雨 URL

2011/06/08 (Wed) 20:09:08

>平田東正さん
フォローしときますけど、サンマも遡上することがあるそうです。
とはいえ、かなり例外的で、汚染のない川の河口付近にちょっと寄ってくるとかなんとか。(Wikipedia目黒のサンマ参照

二度見されるほどの内容ではございやせんぜ(何
あまり批評してくれる場に投稿したことがないので、これからもちょくちょく掲示板に投下するかと思います。
なので、良い点悪い点をずばっとお願いします。
...お手柔らかに。

作品について説明、というか言い訳ですが、
『彼』と『私』については高校の文化祭で委員会の出し物として書いたものの設定をそのまま引っ張ってきたんですが、語り部の名前を忘れて性別不詳になってしまったことを物凄く悔いてます。。
秋の順番ですが、意識しないで書いた産物なのでおそらくそこに穴が...
次回から並列した言葉は揃えるように心がけます。

長文失礼致しましたm(_ _)m

Re: 三段噺 始めてみませんか?Part2 - 平田東正 URL

2011/06/12 (Sun) 21:02:59

【キーワード】「麦茶」→「歌詞」→「初恋」(順番に従う場合はこの順で、詳しくはレス2番を参照)

Re: 三段噺 始めてみませんか?Part2 - 詩雨 URL

2011/06/27 (Mon) 03:58:55

深夜4時の投稿でーす
朝チュン!
前回の投稿と合わせて読んでいただくとより分かりやすいかと。

 一寸の疑いの余地もなく、夏だった。
 その日の気温は30度を余裕でぶっちぎり、記録的な熱帯夜となった。まったく、地球というやつは。
 私――小阪柚はグラスに注いだ麦茶を煽り、際限なく吹き出る汗を拭った。
「ゆずむー。麦茶、こっちにも頂戴よ」
 幽霊のくせに、飲み物をねだるときた。
「文。たまには幽霊らしく背筋が凍るような演出してみなさいよ」
「嫌だよ。怖いもん。そしてそれ、二度目」
 しれっと言い放った文はお気に入りのCDの歌詞カードを眺めながら鼻歌なんかを奏でている。彼には暑いという感覚がないようで、汗ひとつかいていない。
「いや、暑いよ?」
「思考を読むなっ!」
「実はしゃべってたというオチ」
 恥ずかしいっ!
 私が部室の隅に逃げて行ったのを横目で見たあと、文は外で暑苦しい掛け声を挙げる運動部を見やった。
「運動部もご苦労なことで。熱中症には気を付けてほしいね」
「仲間入りしないように?」
「……そんなとこ」
 正直、文が地縛霊になった理由はわかっていない。
 ある日突然現れて、そのまま居つくようになったのだ。
 文がここに来てだいぶ日が経つけれど、こうやって普通に話していると同年代の男の子と会話している気分になる。
 もっとも、文が私と同い年という保証も確証も、推論できる理由すらないのだけれど。
「最近の曲ってさ」
 歌詞カードを見ながら、文がしゃべりだした。
「愛だ恋だって歌詞が多いけど、世界はそんなに愛に飢えてるのかな」
 それは疑問ではなく、ただの呟き。
 私は何と答えたらいいかわからなくて、ただ黙っていた。
「初恋かー」
 突然脱力し、パイプ椅子にぐでっとしながら文が唸った。
「そんな青春する前に僕、死んじゃったし。よくわかんないんだよね。……いや、僕にとっての恋人は本かもしれない」
 ぐるりとあたりを見渡せば、本の山脈が出来上がっている。
 ここにある本は私が入部してから集まったものもあるけれど、ほとんどは先代の文芸部員が残していった本だ。部費を使って購入した本もあれば、先輩が実費で買って置いて行った本もある。
 かつて文も、ここで本を読み、色々なことを感じたのだろう。
 それは喜びであったり、悲しみであったり、期待であったり、不安であったり。
 そんな思考に陥って、私の脳裏にひとつの言葉がよぎった。
 しかし、横で「初恋かー」などと呆けた顔でいう幽霊を見ると、そんな考えは妄想以下の産物でしかないと苦笑するしかなかった。
 幽霊が初恋の相手だなんて。
 文が、初恋の相手だなんて。
(了)

Re: 三段噺 始めてみませんか?Part2 - 平田東正 URL

2011/07/08 (Fri) 06:03:53

 >詩雨さん
 
 まず2行目で「記録的な熱帯夜」とありこれは間違いかと咄嗟に考えたのですが、調べてみると「熱帯夜」はなんか正確な定義がないらしいので完全に間違いとは言い切れないようです。しかし紛らわしいし、ここで使うのも微妙な気がするので変えた方がよいと思います。
 全体的に柚と文の会話がテンポよく流れるのが心地よくて好きです。会話にユーモアのセンスを感じます。「初恋かー」の辺りはちょっと唐突な感じもあるので、ここは改善の余地があるかもしれません。
 特に最後の2行がとても好きで、「文が、」と間に読点を挟んでいるのがよいと思います。そこに柚のためらいがちな遠慮や戸惑いを読みとる事ができるので。

 ところで、ぼくたちの文芸同好会にも部室はあるんですけど、やっぱり文芸と言うからにはぜひとも部室に本を置きたいですね。今あるのはほとんど会誌ですし……、まあ、部費で買うって言ってもそんなに部費ないでしょうけど。新潮の『yomyom』とか『文藝春秋』とかの雑誌系は個人で買う事が少ないから、部室にあったらありがたいなー。

Re: 三段噺 始めてみませんか?Part2 - 詩雨 URL

2011/07/08 (Fri) 21:24:02

ナチュラルに全力でミスしてましたね……
学校にいるのに熱帯「夜」って!
本当は「猛暑日」とか「酷暑日」とかにしたかったんですよー
構想の段階では夜だったことがアダとなったようです。。
「初恋かー」のくだりは文の疑問に柚が何も言わなかったゆえの産物です。
答えてくれなきゃ自分でしゃべる、それが文でs(殴

ここに描いたのは私が思い浮かべる高校の文芸部なんで、大学生になった今はすでに諦めた絵空事ですねー
部室に行くってのは私にとって卒業までにしたいことの一つです(笑)

Re: 三段噺 始めてみませんか?Part2 - 詩雨 URL

2011/11/24 (Thu) 20:40:24

寒くなってきましたので温かい物語が読みたくなりました
ここにお題投下したら誰か書いてくれるかなーなんて。
キーワードは
【初雪】→【手】→【ココア】

Re: 三段噺 始めてみませんか?Part2 - 詩雨 URL

2011/12/02 (Fri) 22:05:41

>高橋光太さん
切ないっ!
砂糖少な目のビターな熱々ホットチョコレートをふーふー冷ましながら飲んでるような心地です。。
正直このお題を出したときに「誰も書いてくれなかったらどうしよう」とか「いっそホラーとか書かれたらどうしよう」とか思ってたんですがちょっと安心しました(^^;)
物語はとても綺麗で良かったのですが、序盤部分の句点がちょっと多いかなと思います
序盤以外は心地良いテンポなので、書き終わった時に序盤の句読点の位置を見直すといいんじゃないかと。

そしてお蔵入りになったという高橋さんのホラー小説、実は目にしております。
じっくり読んでいないので感想は書けないのですが、そんな裏事情が……。

Re: 三段噺 始めてみませんか?Part2 - 高橋光太

2012/04/27 (Fri) 14:10:03

ここを私なんぞが更新していいものか数か月悩みましたが、過疎化しているので新たなお題の提示に踏み切ります。
個人的には三段噺好きなので、伝統のように続いていくといいなと思っています。


【キーワード】「椅子」「花粉」「温度」

Re: 三段噺 始めてみませんか?Part2 - 詩雨

2012/06/18 (Mon) 06:00:52

椅子に座りながら、寝不足の目には染みる太陽光を全身に浴びていた。
時期はもう6月。梅雨に入ったのか入ろうかという時期である。
「はっくしょーーーーーい!!!!」
時計はまだ午前8時を回ったばかりだというのに、朝っぱらから元気なくしゃみをかましているのは我が幼馴染だった。
容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能。
文武両道才色兼備なこの幼馴染の女子生徒が、唯一苦手とするのがこの時期だった。
「大変そうだな」
俺が声を掛けると、洟のかみすぎですっかり赤くなってしまった鼻をティッシュで押さえながら、くぐもった声で幼馴染が言う。
「杉花粉で花粉症になるならまだいいわよ。花粉症シーズンに花粉症発症してるんだからね。イネ科の植物全般で花粉症とか本当に無いわよ!?あの人花粉症のシーズン終わったのにまだマスク付けてるーとか言われる人の身にもなってみなさいってもんよ!!」
はっきり言っておく。
俺の幼馴染はこの時期だけ荒れる。
いつもはお淑やかなお嬢様然としているのだが、この時期になるとどこの江戸っ子だい?と声を掛けたくなるくらいには荒れる。
「イネ科の植物とかもう全部滅ばないかしら……」
「米が食えなくなるぞ」
「お米が無ければ、パンを食べればいいじゃない?」
お前はマリーアントワネットか。
「そうよ……気温が下がれば花粉なんか飛ばないのよ……人為的に地表の温度を下げる機械とか作れないかしら?」
「やめろよ?お前の花粉症の為に地球が滅ぶ未来が一瞬だけ見えたぞ?」
しかも本当に作りかねんという。
ぎゃーぎゃーと花粉に対して文句を言う幼馴染を見て、そういえばこういう診断メーカーがTwitter上で流れて来たなーと思いつつ、俺は幼馴染の為に窓を閉めた。

神様は、俺の幼馴染に美しい容姿、聡い頭脳、素晴らしい運動神経、そして誰にでも慕われる人間性を与えた。
これでは彼女が恵まれ過ぎてはいないかって?
大丈夫。イネ科の植物全部の花粉症にしといた。

Re: 三段噺 始めてみませんか?Part2 - 詩雨

2012/10/11 (Thu) 22:22:02

私が放置しているとすっかり廃れてしまうこのBBSにも書き込みをお願いしますですよ?
と、いうわけでもう何回目かわからないお題提供いってみましょー
今回のお題は「CD」「髪の毛」「並」です。
この関連性の薄い三つの御題をいかにつなげるか、ぜひぜひ試してみてくださいねー
それでは私も執筆しに行きたいかと(会誌原稿書け

Re: 三段噺 始めてみませんか?Part2 - 温泉郷

2013/01/11 (Fri) 00:26:40

 印刷できず、ゆるさまじっ!
 ということで、活動で出せなかった短編を勝手に載せたいと思います。すいません! 人肌程度の鉄板の上なら焼き土下座をしますのでご勘弁!
 ではどうぞッ! あ、あと批判とかは平気で受け付けますので、どんな手段でも寄こしてください!

 テーマ「死」「真実」「学校」

 タイトル:努力する人は大嫌い。だけど、自分の限度を知らない人間は死んでほしい。 
                       

 あの子、何をしてるの?
 私が、粉雪がゆっくりと振り降りる夜空を見上げたのは、誰かが言ったその言葉だった。
 見上げると同時に、自分の口から零れる白い息が微かな横風のせいで掻き消されるのを見ながら、その奥の屋上に、夜空に溶け込むように立っている女子生徒の人影を捉える。
 見覚えのあるショートヘア。地上を見降ろす彼女の顔は、影と夜に溶けて見えない。
「誰? あれ」
「映画部の撮影?」
「なんかかっこいいー」
 気楽に呟く辺りの生徒たちは足を止めて彼女を見上げていた。今年最後の学校ということもあったせいで、気分が高揚しているのかもしれない。私も、そうだった。
 でも、私は、彼女を見て背筋が寒くなった。
「嘘……」勝手に、口が動いた。「夕貴、ちゃん……?」
 ほんの微かに見える彼女の口元が、笑ったように見える。他の生徒も見えたのか、辺りの時間が止まったみたいに静かになった。
 ――え、落ちるの?
 また、誰かが、呟いた。
 夕貴ちゃんの身体は、静かに、傾いた。

「知らないって!」
 感情を爆発させて、机を強く叩いた佳苗ちゃんの怒声が、放課後の教室に響いた。
「夕貴が飛び降りたのは、あたしが知ってるわけないでしょ! 変な目であたしを見ないでッ!」
「で、でも……、あの時…………夕貴ちゃんと会ってたのって…………」
「だからって、どうしてあたしが夕貴を追い詰めなきゃいけないの!」
 教室に、誰もいなくてよかった。佳苗ちゃんのこんな怒声を聞いたら、他の子たちに迷惑がかかるから。
 もう一度、佳苗ちゃんは机を強く叩いた。
「いい? あたしは、あんたと違って夕貴の友達なの。金魚の糞みたいに、夕貴の性格を利用して友達ぶるやつとは違う」
「私は…………夕貴ちゃんの、友達…………だよ……」
「それは、夕貴が優しかったから。夕貴が、どんな子にも優しい子だったからよ」いい? と、佳苗ちゃんは強く私を睨んだ。「静、あんたは私たちと違う。あんたは一人になるべき子なの。夕貴が自殺したのを悲しんでくれるのは嬉しい。でも、それで、あたしや他の子を恨むのは止めて」
「私は……佳苗ちゃんを恨んでるわけじゃ……」
「名前を呼ばないで。じゃあね、静。…………もう二度と、話しかけないで」
「……ごめん」
 舌打ちをする音が聞こえて、すぐに佳苗ちゃんは帰っていった。去年まで一緒に帰った女の子たちの姿は、どこにもない。よくは知らないけど、夕貴ちゃんや佳苗ちゃんと一緒に帰っていた子たちは、みんなバラバラに帰るようになったみたい。私も、その一人だ。
 私たちの時間は、あの冬の夜に、夕貴ちゃんが死んでから止まった。
 どうして夕貴ちゃんが死んだのか。
 私だけじゃなく、他の夕貴ちゃんの友達も、色んな人に聞いたけど、誰も知らなかったし、分からなかった。
 誰とも仲良くなれて、誰にも優しかった夕貴ちゃん。
 その夕貴ちゃんが、誰にも相談なく死んだ。それは、夕貴ちゃんの友達枠で、夕貴ちゃんが死んだことよりも、大きな波紋を呼んだ。
 誰が一番、彼女に信頼されていたのか。
 どうして死んだのかではなく、誰が信頼されていたか。
 夕貴ちゃんが何故死んだのか、その目的を見つける手掛かりが無くなったみんなは、口々に本当のことか、嘘のことなのか分からないことを話し始めた。
 夕貴ちゃんは、死ぬ前にこう言っていた。彼女は前からメールで相談してきた。彼氏に振られた。
 どれもこれもが、確証の持てない話しだった。
 もうこの学校では、夕貴ちゃんの死んだ理由は、嘘とも本当も分からない、不思議な空気に掻き消されてしまった。
最も嫌なことは、私が一番知りたい情報が、如何に誰が信頼されているか、という言葉と同じ認識にあることだった。
もし事実を聞いても、それが本当なのか分からない。嘘を聞いても、実証しようがない。
嘘も本当も、みんなの願望でうやむやになっている。
「……でも…………諦めない」
 もしかしたら、私は、夕貴ちゃんに友達と思われていなかったかもしれない。みんなに優しい夕貴ちゃん、というイメージは、もしかしたら嘘かも知れない。
 女の子の集団は、一列だ。みんな仲良くという暗黙の了解を、みんな守りたくもないのに守って過ごす。だからみんな、自分に嘘をついて、表だけを共通させる。逆に、良くも悪くも、自分に嘘を作れない女の子は孤立する。だから夕貴ちゃんも嘘をついていたかもしれない。
 他の子と同じように。
 だけど、夕貴ちゃんが前もって死ぬつもりだったなんて思わない。
 だってあの時、夕貴ちゃんは言っていた。
 あの日の、帰りのHRが終わってから、
「明日は静の誕生日だよね? パーティしない?」
 なんて、馬鹿なことは言わないはずなんだ。
 私みたいな地味な人間に。金魚の糞な私に。
 言うわけではないんだ。
 だから、きっと、帰りのHRから夕貴ちゃんが自殺するまでの間に、何かが起きた。
 何かが。
 何かが、この学校で。
 私が座っている席のある、この学校で。
それでも、私は知りたい。
 どうして夕貴ちゃんは死んだのか。
 友達と思われなくても、関係ない。
 この学校で、一体何が起きたのか…………、知りたい。
 あの雪の日に。
 降る雪よりも早く地面に落ちて行く中、夕貴ちゃんは何を思って死んだのか。
 私は、知りたい。

Re: 三段噺 始めてみませんか?Part2 - 詩雨 URL

2013/01/18 (Fri) 14:36:31

「おっと待ちな!」と打とうとしたら「夫待ちな!」という穏やかじゃない変換がなされました。どうも、詩雨です。
ひとつ前のお題、つまりは自分で投下したヤツを先に消化させてください!
「消化」が「昇華」って変換された。しにたい。



「CD」「髪の毛」「並」

レンタルCDショップに行った。
その日は朝から何もすることがなくて、暇つぶしにとCDを借りに行った。
何気なしに棚を見て歩くと、長い黒髪の女性が3つ隣の棚を眺めていた。
綺麗な人だった。
「あ、ごめんなさい。邪魔でした?」
「あ、いえ……」
せっかく声を掛けてくれたんだから何か話せばいいのに、コミュ障の俺には掛ける言葉など見つかるはずもない。
ふと、彼女が見ていた棚に目がいった。
有名アーティストの、有名な曲。
「あ、これ。ゲームのオープニングになってたやつ」
思わず呟いた。
「あ、わかります?それを返しに来たついでに、何か借りようかなぁ、と」
思わぬ共通点に心の中でガッツポーズをして、シリーズの別の曲について聞いてみた。
彼女は驚いたり、共感したり、ころころとよく表情を変えながら、決して上手くはない俺の話を聞いてくれた。
時折、彼女が長い髪の毛をくしゅっと触るたび、甘い香りが漂ってきて気が気でなかった。
「じゃあ、それを借りていこうかな」
彼女がCDを探しに行ったのと同時に、店員がCDを戻しに来た。彼女が借りたという、それだった。
楽しそうに彼女が話したその曲をもう一度聞いてみたくて、店員が去った後、すぐにそれを手に取った。スマン、店員の兄ちゃん。アンタの手間は無駄にはしない。
そのままカウンターに並ぶと、後ろに彼女が並んだ。
「あ、それ、借りるんですね?」
彼女の、ふわりとした笑顔に思わず見とれて、店員の兄ちゃんに呼ばれているのに気が付かなかった。
「お次でお待ちのお客様どうぞー!!!」

会計を済ませたあと、すぐに出ても良かったが、なんとなく彼女が出てくるのを待った。
お洒落の欠片も無い部屋着の、顔も並よりは絶対悪い男なんかが、ちょっと気色悪いんじゃなかろうかと思いつつ、出てきた彼女が手を振ってくれたことに少し安堵した。
「感想、聞かせてくださいね?」
「じゃあ、返しに着た時。一週間後かな」
「あ、私新譜も借りてるので明後日になっちゃうなぁ……」
「それなら明後日でいいですよ。また、ここで」
「はい」
ふわりと彼女が見せた笑顔が、心のどこまでも突き刺さった。
ああ神様、三次の嫁要らないとか言ってごめんなさい嫁とか贅沢言わないので彼女とせめて友達になれますように。
心底穏やかじゃない内心で、そんなことを呟きながら彼女を見送った。

妹が遠くから走ってきて、こっちを嫌そうに見た後、彼女と楽しそうに話しながら歩いて行った。

三段噺 始めてみませんか?Part2 - 詩雨

2013/02/14 (Thu) 13:32:51

週刊三題噺「プリン」「洗濯機」「カレンダー」
キワモノお題を恒例化したい人一号です。
木曜日にお題を出すつもりでいるので、そのお題での投稿期限は二週間になりますね
ブログと同じでテスト前などの忙しいときは休刊しますのでご安心を。

Re: 三段噺 始めてみませんか?Part2 - 詩雨

2013/02/19 (Tue) 04:22:30

テーマ「死」「真実」「学校」

人間が死んだとき、周りの人はたいてい、悲しむだろう。
けれど、もし人間がその痕跡を残さず記憶からも消えてしまったなら。
このカメラには真実が写っている。
教室には8つほどの机が並んでいる。
その窓際後ろが、僕の定位置だった。
「人、減ったなぁ……」
そう呟いても、答える人は居ない。
僕以外の人間には、この異常でしかない現象が感じられないからだ。
どうして、このカメラには、三十人もの生徒の集合写真があるのに、七人のクラスメイトはそれを誰も覚えていないのか。
「まーたカメラ小僧してんの?」
七人のうちの一人が、声を掛けてきた。
「撮ってるんじゃなく、見てるんだよ」
彼女は、僕の、五人目の幼馴染。
一人目は、この現象が始まってすぐに消えた。
もともと目立つ子ではなかったけれど、それまでに過ごした日々は決して嘘ではなかったはずだった。
二人目は、彼女には悪いことをした。
本当の幼馴染が消えて、不安定になっていた僕は、彼女に当たり散らした。どうしていいかわからず、目に涙を湛えて「ごめんね」としか言えなかった彼女は、僕の頭が冷えたころには消えていた。
三人目は、ほとんど話しかけてこなかった。
ただ、家が近くだというだけで、別段接点はなかった。
彼女も、気が付いたころには消えていた。
四人目は、僕がこの現象について調べ始めたのを、真剣に聞いてくれた。
傍から見たら、頭がおかしいヤツとしか思われなかった僕の行動を支えてくれた。
街をあちらこちらへ行ったり来たりして、色々調べたけれど、結局は大きな手がかりは得られず、症状が現れ始めた彼女を、どうすることもできず、ただ見ていることしかできなかった。
五人目の彼女とは、今日初めて口をきいた。
自棄になっていた僕を見て、何を思ったのだろう。
「――ってさ、昔から写真好きだったよね。いや、カメラが、かな?」
やめてくれ。
僕にとって、キミは今日初めて会話をした程度の仲でしかないんだ。
僕を昔から知ったような口をきかないでくれ。
まばらになった学校の、小さな教室の一室で、僕は頭を抱えた。
めまいがする。
ついに、僕も消えるのだろうか。
もう、それでもいいかもしれない。
―――――。
白い空間にいた。
眠っていたのか、起きていたのか、よくわからない。
足元に、小さな人形が転がっている。
その数、八つ。
あぁ、そうか。
こうして創っていたんだ。
それなら、創る手を止めてはいけない。
続けなくては。
新しい、世界を。

Re: 三段噺 始めてみませんか?Part2 - 詩雨

2013/02/28 (Thu) 19:58:20

週刊と銘打ちながら一週間丸々空いてしまいました。申し訳ない。
今週のテーマは「水筒」「傘」「台所」です
一応、水関係といいますか。

Re: 三段噺 始めてみませんか?Part2 - 詩雨

2013/03/23 (Sat) 18:46:07

「プリン」「洗濯機」「カレンダー」

空のプリン容器があった。
今しがた俺が食べたのだから空なのは仕方がない。
問題なのは目の前で目を吊り上げて腕組みをしている彼女である。この場合の『彼女』は代名詞の『She』ではなく『ガールフレンド』の方の彼女だ。
リア充爆発しろというツッコミは華麗にスルーして、俺はテーブルを挟んで彼女の前に正座している。
分かりやすい構図だが、彼女が取っておいたプリンを俺が食べてしまったからに他ならない。
洗濯機がゴウンゴウンと鳴る音だけが響いている中、俺は冷や汗を出し過ぎて干からびるんじゃないかという妄想に囚われた。
彼女は、俺となんか釣り合わないくらいの美人である。
才色兼備で文武両道のお嬢様とでも言っておけば大きくは違わない。
そんな彼女が、口を真一文字に結んで険しい顔でこちらを睨んでいるのである。
一体どんなお仕置きが待っているのだろう。いっそMに目覚めそうだ。
「……話を聞こう」
彼女が重々しく口を開いた。
「えっと、帰ってきて、飲み物を取ろうと冷蔵庫を開けたらプリンが入ってたので、おやつ代わりに、つい」
俺が言い終わると同時に、洗濯機が作業を終えたピーという間抜けな音を発した。最悪のタイミングである。
「つい、で私が楽しみに取っておいたプリンを食べた、と」
二人とも座っているはずなのに、彼女の高く澄んだ声が嫌に高所から降り注いでくる。
狙ってやったこととはいえ、彼女にこういう顔をされるのはやっぱり怖い。
世界に二番目に好きなのがプリンというだけはある。
じゃあ、一番は?
「当然、代わりは買ってあるのよね?」
「もちろんでございますお嬢様」
しめたと言わんばかりに、俺は席をスッと立ち、冷蔵庫から一つの箱を持って彼女の前に差し出した。
彼女の手を煩わせることなく、俺が箱を開けてその中身を取り出す。
そこから、彼女が愛してやまない、世界で一番好きなケーキ(近所にある老舗洋菓子店の高級ケーキ※俺のバイト代一か月分)を取り出す。
「うむ、下がって宜しい」
恭しく頭を下げ、スッと下がると、彼女はくすっと笑った。
「お疲れ様」
どっと疲れが出て思わずへたり込んだ俺に、彼女は笑いながら声を掛けた。
「もうちょっと面白い演出が欲しいかしらね?」
「……この茶番、もういいんじゃね?」
「駄目よ。最初にコレをやったときに、私はもう二度と同じことをさせまいと決意したんですもの」
「せめて普通に渡させてくれよ……」
くすくすと笑う彼女の後ろにカレンダーを見つけて、もう一つ渡すものがあったことを思い出した。
「ほい。誕生日プレゼント。一日早いけど」
「ありがと。世界で三番目に好きな彼氏」
プリンとケーキに勝てないというのは悲しいものがあるが、彼女の笑顔が見れるなら、それでも……いや、よくねぇよ。

Re: 三段噺 始めてみませんか?Part2 - 高橋光太

2013/03/26 (Tue) 18:44:33

 先ほどメール誤爆した高橋です。あー恥ずかし。恥ずかしい勢いで短編書いたよ。

 
「水筒」「傘」「台所」


 現在の私の状況をまとめると、サークルの定期連絡のようなメールが届いてそれに即レスしたところ、一括送信先全員に返信してしまい私が昨日活動をさぼったことがバレ、だからiphone嫌いなんだバカヤロ―と衝動に任せ近所を全速力でチャリで走っていたところ何かに乗り上げ転倒しました。
 幸い芝の上だったため私自身にけがはなかった。自転車も、もうすでに壊れようがないほどぼろぼろなので被害なしと言っていいだろう。よっこいしょ、っと年寄りくさい掛け声をかけながら自転車を起こし、何につまずいたのかと見やればそれは何でもない、小学生が遠足に持っていきそうな水筒だった。私自身小学校の頃は、運動会とかの時にお世話になったものだ。持っていたのは蓋がコップになるタイプのものだったのだけれど、友人の持っていたストローが飛び出てくるタイプの水筒が欲しくて仕方がなかった記憶がある。最近はもっぱらペットボトルのお茶を買うことが増えたから、我が家で水筒の姿を見かけることはなくなってしまった。そういえばあいつは、今我が家のどこにあるのだろう。もう捨てられてしまったのだろうか。
 自転車をいったん止め、泥で汚れた水筒の周りを指で拭う。青が主体のそれはどうやら男の子が持ち主だったようで、アニメキャラクターの書かれたパッケージには大きな字で名前らしきものが書かれていたが、達筆過ぎて読めなかった。
 ぽつ、と地面が濡れる。水筒の中身の液体が垂れたのかと思ったがどうやら雨で、それは瞬く間に土砂降りになる。衝動的に家を出てきたものだから無論傘なんて持ってきていない。持ち主が早く見つかるよう、街路樹に目立つように水筒をぶら下げてから私は再び全速力でチャリを漕ぎ、家路を急いだ。
 タオルが切れていたので雑巾でびしょぬれの頭を拭きながら、台所の棚という棚を漁った。だが探しものである水筒は見つからない。やっぱり捨てられてしまったんだろうか、iphoneの懐中電灯アプリで暗闇を照らしながらそう思いつつ探していると、メールを受信した。棚に頭を突っ込んだままの状態で開いてみると、会長からの返信だった。それを見てすっかり忘れていたさっきのメール誤爆を思い出す。うわー恥ずかしいなと自分の今の状態を忘れ悶えると思いっきり天板に頭を打った。その衝撃で棚が底抜けし、中身が雪崩のように床へと散らばる。一等重い音を立てて転がり出たのは、ずっと探していた水筒だった。さっき道に落ちていたものとは色違いのような似た形状のもので、やや薄くなったピーターラビットのデザイン。昔は重くて大きくて邪魔なイメージだったけれど、こんなに小さかったのか。棚のものを元に戻しながら、水筒を一番手前の目立つ所に置いておく。春になったらこの水筒を持って花見に行こう。一緒に行く人はいないけれど、ぼっちだけれど、水筒にお茶を入れてバイト先で廃棄のぼたもちを持って近くの名所に足を伸ばそう。
 庭の角に植えられたサクランボの木を見る。まだまだつぼみは固そうだが、春は確かに近づいてきている。
 気づくと雨はすでに止んでいた。

Re: 三段噺 始めてみませんか?Part2 - 詩雨

2013/09/13 (Fri) 05:30:47

 『赤』 『白』 『黒』

つまるところ、私はただ、寂しかったのだと思う。
赤く染まる両手を眺めて、ひとつ溜め息を吐いた。
横たわる白いヒトガタと、広がりゆく赤い染みが夕闇の黒に溶けていく。
「わざとじゃないよ。……わざとじゃないんだ」
私が呟くと、後ろに座っていた男子生徒が苦笑いで応える。
「そんなこと分かってるよ」
「それじゃあ貴方も共犯者――」
「馬鹿な事言ってないで早く片付けな。見回りの先生が来るよ」
「はーい、部長」
私は石膏の胸像をどかし、ブチ撒けた赤色の絵具を雑巾で拭き始めた。
つまるところ、私は寂しかったんだと思う。
こんなことでしか気を引くことができない間柄だったことに。

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